代償植生とは(移入植物は本当に高山植物を駆逐してしまうのか?)



1、移入植物の侵入経路

2、移入植物とは?

3、移入植物の重要性

4、代償植生

5、除去作業の是非

6、尾瀬目次へ戻る

7、アヤメ平へ戻る

8、至仏山へ戻る

9、トップページ



1、移入植物の侵入経路

 尾瀬は戦後日本の環境保護発祥地であり、特に高山植物の保護にはボランティアも交え熱心に活動しております。具体的には至仏山やアヤメ平における裸地化した湿原や登山道の復元作業、山ノ鼻や尾瀬沼での移入植物の除去作業などです。
 つまり復元作業と除去作業という相反する行為が尾瀬で行われているわけです。移入植物の侵入を防ぐため靴底に着いた種子を取る装置(下の写真)も設置されており、皆様の中にも鳩待峠や一ノ瀬の登山口にあったことを憶えてらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

 
 移入植物は、明治時代にダム工事計画の測量調査や工事の際に入ったのがそもそもの始まりと言われ、山小屋の建築材料や物資をヘリコプターで運搬した際に侵入したものがほとんどだそうです。それを裏付けるかのように、山小屋周辺には数多くの移入植物が見られます。
 では、登山者を媒介とした侵入はどの程度なのでしょう。多くの登山者は都会在住者が多く、ここへ来るまでの間はアスファルト上を歩くし車やバスを利用しての入山がほとんどのため、下山後はともかく入山前の靴に泥をタップリ付けた方は余り見受けられません。
 ただ、一見きれいな靴に見えてもソールの溝に泥が付いていることは多々あります。また、植物の中には動物に種子を運搬してもらうよう、かぎ状の形態をとったり粘着するものもあるため、入山者の衣服や靴ひもに付着することで侵入してくることも考えられるでしょう。つまり写真のような装置では、種子の侵入を完全に防止することはちょっと厳しいような気がいたします。
 こうなると、そもそも移入植物が尾瀬にとってプラスなのかマイナスなのかという根本的な疑問を解決する必要が出てきますね。
 このページは非常にメールの御意見が多く賛否両論渦巻くようで、特に大学関係者の方には受けがよくありません。オオバコが代償植生としての役割を果たしていると有名な先生が論文で発表されれば右に習えで従ってしまうのに、発表のないヒメジョオンは尾瀬ではいらないと言う意見は「?」と思ってしまう部分がございます。日本に入った外来植物の多くが勢力を拡大し猛繁殖してしまうのではと言われておりましたが、セイタカアワダチソウ、アレチウリ、ブタクサ、ビロードモウズイカ等いつの間にか減ってしてしまったという報告を最近聞く機会が増えました。
 移入生物の問題に関しては最近話題になっている分野であり微妙ではございますが、科学的根拠なるものに常々疑問を感じておりますので、ちょっと私見を述べさせていただきます。30代以降の方なら御存じであろう金八先生がおっしゃった「腐ったミカン」の話しです。知らない人はいないはずですよね。腐ったミカンは箱からどんどん放りだせばいいって金八先生は言ってましたっけ?人間だけでなく動物や植物も未知の世界に放り込まれたらもがき苦しんで暴れるのではないでしょうか。暴れるだけ暴れたらその中で少しずつ生きていくヒントを得て、最終的には落ち着く。人間の世界で言えば少しずつ進むべき道(規範なるもの)が見えてきて整備がなされていく。もちろん危急存亡ともいえる状況にある生物に関しては手を差しのべるべきとは考えております。

 

 

 
 では、靴底の泥を除去することに主眼を置いたこの設備に何の問題があるのか?
1、登山者の多くが摺り足しながら通過するだけなので(気持ちだけ擦っているだけ)泥の除去ができない。
2、固まってくっついている泥は落ちない(歩行中に落ちる可能性あり)。
3、土砂降りがあった時にオーバーフローして、溜まった泥や種が登山道や湿原に流入する可能性がある(鳩待峠)。
 設置したりアイデアを提供した当事者ではないため、コメントできる立場にはございませんが、以下の啓蒙活動や敷設等をしていただきたく思います。
1、2について
 自然保護とは各人が自然をどれだけ愛するかという心の深さに依存します。しかし、心の深浅は目に見えないもの。人の心を変えることは出来ませんが、みなさん自身が変わっていただければよろしいのです。みなさん登山はもちろんお好きですよね。山へ登られるとき、最も重要なアイテムは何だと思われますか?そうです、靴ですよね。では、この自分の命を預ける登山靴を大事にしていただけませんか。そう、登山が終わり家に帰ったら靴底を洗ってたり汚れを拭いたりして、登山靴をいたわっていただきたいのです。登山靴を大事にしてくだされば、植生保護にもつながるんですから。

3、について
 排水溝を整備するか、設置場所を変更する。
 鳩待峠は、その地形上の問題から移入植物の侵入を防ぐのが難しいところです。鳩待峠は舗装されておらず大小の小石が散在しているため、案外ここで靴底の泥が落ちます。そして入山口付近は尾瀬ヶ原側に傾斜しているため雨が降れば、落ちている種子や泥がジャンジャン尾瀬ヶ原へと流れていってしまうのです。
 つまり、ここから改善しないとどんなにすばらしい除去装置が設置されていても、移入植物の除去は不可能となってしまいます。できることなら鳩待峠の下の駐車場までが一般車(バス、タクシーを含む)の乗り入れ限界とされ、そこから入山していただく。上記装置は現在の尾瀬ヶ原側ではなく戸倉側にも設置していただきたいです。これにより除去装置内のU字溝に貯まった泥が雨でオーバーフローしても水は尾瀬へいかず片品村へ流れるので、現在よりは効果があるように感じるのですがいかがでしょう。

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2、移入植物とは?

 尾瀬の移入植物(平地性植物と帰化植物)には、オオバコ、ヒメジョオン、スズメノカタビラ、エゾノギシギシなど47種が挙げられておりますが、山ノ鼻では新たにブタナやムシトリナデシコなどの帰化植物が生育しているのも確認しております。
 これら移入植物は、みな、繁殖力が強いため高山植物を駆逐してしまう可能性があるという考えが今も残っているため、現在でもその考えのもと除去作業が続けられているのです。
 1999年においても山ノ鼻で120kgの移入植物が除去されましたが、尾瀬保護財団のコメントは以下のようなもの。「毎年除去作業をするものの全く効果が見られず、年々増えているように思う」。
 これは、植物の生態から見れば当然のことなのです。ある植物を抜けば、短期的には植物は育たないが、今度はその状況に適した別の植物が必ず侵入してきます。まさにいたちごっこ。
 では、オオバコなどの植物は本当に強靱な生命力をもっているのでしょうか?みなさんの近所にも公園や鋪装されていない道路があることと思いますので、そこへ行ってこれらの植物の分布をもう一度丹念に観察してみましょう。
 常に車が走ったり、人が歩く踏み固められた所は裸地化しておりますが、それほど踏みつけの少ないベンチや公園の隅、わだちの両側には、オオバコやタンポポなどが生えていると思います。そしてその奥をみると背丈のあるヒメジョオンやアザミ、ヨモギ、ススキなどが生えているのではないでしょうか?
 では、ここで彼等を雑草と見る既成概念を取り外して観察してみましょうか? オオバコやスズメノカタビラなどは踏み固められた地面に生えているがゆえ、繁殖力が旺盛な忌々しい植物と考えがちですが、ある決まった場所にしか生息していないのが見てとれるはずです。踏み付けの少ない所や日陰になる所、背丈の高い植物の生えている中には、決して生えていないはずです。つまり、オオバコやスズメノカタビラにとってそのような環境は、生育しづらく他の植物に駆逐されてしまうのです。そのような環境はヒメジョオンやアザミ、ヨモギなどの格好の生育地であり、そのことからオオバコやスズメノカタビラが強靱な繁殖力を持っているわけでもないことがお解りいただけると思います。
 さらにヒメジョオンなどは、公園ならば植木に、雑木林ならば低木に、湿原ならススキやヨシ、ササの勢力に負けてしまい無秩序に生育してはおりません。
 ぼんやりとではあるかもしれませんが、彼等が他の植物を駆逐するほど繁殖力旺盛なわけではないことが、お解りいただけたでしょうか?

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3、移入植物の重要性

(1)裸地化を防ぐ優れもの

 今、あなたは家へ帰る途中です。あいにく天候が悪く土砂降りにあってしまいましたが、急いで帰らなければならない用があります。早く帰るためには公園を突っ切り、鋪装されていない道路を通らなければなりません。しかし、道路も公園も土砂降りのため土がどんどん流されているし、ぬかるんでいるため歩くに歩けません。でも、よく見ると公園の隅や道路のまん中には草が生えているため、なんとかそこを歩いて行くことができそうです。恐る恐る歩いてみましたが、周りのぬかるみと異なり草が生えているため足場もしっかりしていて靴もドロドロにならず歩いて帰ることができました。
 さあ、ここでみなさんに考えていただきたいことがあります。みなさんがこのような経験をしたとき何を感じますか?靴が汚れず帰られたことの満足感でしょうか。それとも別の道を通って帰ればよかったとか…。いえいえ、そのようなことではありません。ここで注目していただきたいことは、オオバコなどの雑草といわれるものが土砂の流失防止に貢献していることです。今一度上の状況を確認すると、植物の生えている所は根がはっているため土砂が流失していないことから周りより盛り上がっているはずです。一方、植物の生えていない裸地は常に土砂の流失が生じるため、周りより低くなっているはずです。つまり、オオバコなどは裸地を草原化する最初の植物であり、土砂の流失を防ぐ重要な植物といえます。
 では、もしここで雑草だからといって除去してしまったらどうなるか?
 当然土砂が流失し表層土がなくなれば、オオバコすら生育しない荒涼とした土地が広がるだけでしょう。表層土がなくならないとしても、再び除去した植物が生えてくるか、その場に適応した新たな雑草が生えてくる可能性があります。
 これを人間に例えてみましょうか。ある人が火傷をしてしまいました。何日か経ってかさぶたができ、直りかけてきたにもかかわらず見た目が悪いからとかさぶたを剥がしたところ、余計に傷口が広がってしまいました。このとき、かさぶたを取らなければ速やかに傷口は直ったであろうし、かさぶたができたからといって皮膚の全面を覆うことはありえないことは、みなさんお解りでしょう。つまり、オオバコなどの移入植物が傷付いた登山道や湿原のかさぶたの役割をしているのであり、決して登山道や湿原を覆い尽くすことはありえないのです。

(2)都会と原生林の境界としての役割

 多くの観光地について言われている言葉に「保護と適正利用」なるものがございますが、何か背中がムズムズとかゆくなる表現ですね。素直に「保護と適正利潤」と言っちゃえばいいのに。この問題は尾瀬についても同様で環境保護と利便性向上、利益追求が混然としており調整が非常に難しいそう。尾瀬の環境を守るために人を排除したら、尾瀬がどれだけすばらしい場所であるかを人々に知らせることはできません。かといって無秩序に人を入山させるのも問題。おもしろいことに、以前はオーバーユース問題でこの件に関して議論が沸騰しておりましたが、景気低迷と人口減で自然に減ってしまったので、あの議論は一体何だったのか?というようなのが昨今の状況です。
 さて、本題に入ります。原生林に満ちあふれた尾瀬であっても、人が入る限り都会と原生林の境界となるべき場所が必ず出てきてしまいます。場所を特定すれば、山ノ鼻や尾瀬沼のビジターセンター周辺といえますか。共に多い時で1万人を超える人が集まるわけですから、移入植物の存在を認めないわけにはいかないでしょう。これら境界線の重要な役割を考えず、やみくもに移入植物の除去作業を続けることは湿原の後退と土砂の流失を促進するだけです。山の土は無限にあるわけではありませんから。
 以上のことから、都会と原生林の橋渡し役である山ノ鼻や尾瀬沼は、例え移入植物が多くとも湿原保護のためにはなくてはならない場所であると考えます。もちろん移入植物も。

山ノ鼻

木道近辺や裸地との境界には、在来種のミノボロスゲ、移入植物のオオバコ、スズメノカタビラなどが生育することにより、土砂の流失を防ぎ、裸地を草原化しています(山ノ鼻にて)。

 

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4、代償植生

 裸地を草原化し土砂の流失を防ぐ植物を代償植生といいます。代償植生と言った場合、オオバコやスズメノカタビラ、ヒメジョオンなどの移入植物に限らず、在来種のミノボロスゲやヤチカワズスゲ、ミタケスゲなども含みます。
 至仏山東面登山道中腹荒廃地(南米大陸といわれ、湿原から見ると茶褐色で目立ちます)の植生復元作業においても、ヤチカワズスゲの他ジョウシュウオニアザミやミヤマナラなどが植えられておりますが、これも代償植生といえるでしょう。一方、ミタケスゲの種を代償植生としてアヤメ平にまいておりますが、これは、ミタケスゲが初心者にも分かりやすく種が収集しやすかったためだそうです。アヤメ平のような場所には、本来ならヤチカワズスゲやチングルマが適しているとのこと。
 しかし、植生回復もなかなか難しいようで、至仏山の荒廃地にある岩盤上のわずかな土でなんとか生き抜いているユキワリソウの姿をみると、あと何年もつのやらと感じずにはいられません。土砂の流失防止のため丸太や蛇かごを至仏山に設置しておりますがなかなか泥が溜まりません。私は単純に編み目の細かいネットを谷側に敷けばいいように思うがダメなのだろうか?(注・最近は行っております)こういうことは土建業のプロに聞けば、すぐ解決してくれるかもしれませんね。実際、砂防堰堤の工事や土留め工事では行っていますから。
 また、養殖場や釣り堀では沢から流れる土砂を効率よく排除するため上流部では小石の流入を防ぐ粗めのネット、下流部では枯葉や小枝の流入を防ぐ細かいネットを設置します。また、上流部には土砂溜めの池が通常はあります。つまり、至仏山でも同様にこれを利用すれば大小の小石から泥まで流失を防止させることができるのでは。

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5、除去作業の是非

 いままで除去作業に関して反対ともとれる考えを書いてきましたが、ストレートに反対というわけではございません。尾瀬保護財団の職員やボランティアの方々、片品村の婦人会の方々が汗水たらしてがんばってこられた今までの活動には、本当に頭があがりません。みんながみんな、尾瀬を守ろうと必死になって努力されているのですから。ましてや、みなさんが今までしてきたことは無意味なことですよと言う気持ちもございません。ただ、何年経っても移入植物が減らないという現実と代償植生という植物の生態に沿った新しい考えが出始めていることだけ知っていただきたく、この欄を設けたまでです。
 代償植生は長期的な視点に立った考え方であり、即座に結論が出ないためかなかなかご理解を得にくい。
 しかし、自然は待ってはくれません。少しでも代償植生という考えが広まり、実行していただければ幸いです。

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 以上は尾瀬保護専門委員・尾瀬保護財団評議委員の須藤志成幸先生(私の植物のお師匠様)から教えていただいたことを、自分なりにまとめてみました。